小説『大吾、走る。』  (3)

2008年02月09日 10:32

 筋肉ががっしりとついたその巨躯から簡単に推測できるように、大吾は若い頃から体力にはかなり自信があり、なおかつ喧嘩っ早いほうでもあった。今でこそ大吾は、同じ町内のオヤジ連中が集まった『ビッグゴールデンボーイズ』という草野球チームの監督を任されるほど周りからの信頼を得ている。だが、高校時代までの大吾は物事を腕力で解決することもたびたびで、そのため周囲の人間と対立することも多かった。そんな大吾が大きく変わったのは、彼が大学の応援団に入団してからのことだ。
「女子との交際禁止(風俗も含め)」という鉄の掟が存在するその応援団で大吾を待っていたのは、先輩の命令による下級生の集団オナニーや、下半身だけ裸になった先輩のペニスの尺八など、「しごき」の名を借りた強制性欲処理であった。その時点で退部する団員も少なくはなかったが、大吾はそれに耐え抜き、三年後団長に就任するまでに成り上がった。さらにこの時期徹底的に先輩たちから男の味を教え込まれた結果、大吾は自分の中に流れる男好きの血をはっきりと自覚することとなる。 ただ、雄臭い風貌で仮性包茎ながらも巨根の大吾は、苦労せずともハッテン場に行けば向こうから男が寄ってくるため、特定の「相方」を作る気などさらさらなかった。性欲が溜れば、即座にハッテン場に行ってそれを解消する。当時の大吾にとって男は単なる性欲処理の道具でしかなかった。そして、大吾の二十代はまたたく間に過ぎ去り、気がつけば世間ではそろそろ中年と呼ばれてもおかしくない年齢に突入していた。
(俺、ずっとこのまま独り者なのかなあ……)
 得意先の客に届ける酒を乗せたライトバンを運転しながら、ふとそんな思いが今年三十一歳になった大吾の頭をよぎる。だが、根が単純な大吾は、昔から将来への思案が一時間どころか三十分も続いたことはない。かくして店の定休日に、商売物の酒を一杯引っかけて、いそいそと上野あたりのハッテン場に「突撃」する――大学時代から変わることのない定番のパターンを、大吾は現在に至るまで延々と繰り返してきた。
 そんな肉欲に満ちた日々を脳天気に過ごしていた大吾が、勇一と初めて出会ったのは、今から三か月前のことだ。

 (つづく)


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