昭和・平成・令和 極め湯三代目物語(前篇)

2019年04月01日 10:37

昭和・平成・令和 極め湯三代目物語(前篇)



 平成二十四年。
 前年の東日本大震災の記憶が、いまだ人々の心に深く刻まれていたこの年の五月、東京スカイツリーが開業した。
 古来の伝統と最新技術が融合した、世界最長の高さを誇るこの施設は開業当時、大変なフィーバーを巻き起こし、同人誌イベントの帰りに観光目当てで立ち寄った作者も、あまりの混雑ぶりに、展望フロアでの観覧を断念した記憶がある。
 それから七年が経ち、日本のみならず世界に定着した新観光名所から周辺に足を延ばすと、昭和三十年代から時間が止まっているかのような古びた家、目隠しフェンスで覆われた建築中の建物、マンション、コンビニなどが寄り集まる、現代の下町の光景が現れる。
 細い路地を近隣の商店街・遊織《あすおり》に向かって、十分程度歩くと、何の前触れもないまま、小さな銭湯がひょっこりと顔を出す。周辺に溶け込むように建っているこの二階建ての建物は、一階が銭湯で、二階が自宅。客用の玄関と個人宅の玄関が正面で隣り合い、ごくごく平凡な見栄えではあるが、真後ろにスカイツリーがそびえ立っている唯一無二の立地は、この土地ならではの威容を感じさせる。

 平成三十一年四月三十日午後九時半。
 平成最後となるこの日も、紫と白でライトアップされたスカイツリーの手前で、看板に「極め湯」と掲げたこの銭湯は通常と変わらず営業していた。
 靴ロッカーのある玄関からガラス戸を開けて中に入るとすぐに、番台のカウンターがある。そこに座っているのは、白いTシャツにスウェットジャージを穿き、耳と目にかかるぐらいの髪をジェルで無造作にまとめた、いかにも今時の若者といった風貌の青年だ。
 事情を知らぬ客からは、バイトか、あるいは家業の手伝いとみなされがちだが、青年はれっきとした極め湯三代目店主で、名を伊与田《いよだ》極《きわめ》という。
 玄関のガラス戸が開き、反射的に極は「いらっしゃ……」と口を開き掛けたが、入ってきたのがエプロン姿の母親であったため、途中で言葉をあいまいに濁す。
「極《きわめ》、あとはあたしがやっとくから、そろそろお風呂入っちゃいなさいよ」
「……ああ、わかった」
 極はひとつうなずいてカウンターを出ると、隣の男湯ののれんをくぐり、ドアを開けて中へと入った。温かく湿った空気の向こうでくつろいでいた客は三人、まだ風呂にいる客は五、六人ほど。周辺に住む常連客がほとんどだ。彼らに会釈をして、ざっと室内と浴室の様子を見回す。
 二代目の父親からも、事あるごとに言われてきたが、銭湯にとって礼儀と清潔さはまさに生命線だ。八年前、平成二十三年に三代目を継いでから、極はそれを嫌というほど実感し、設備の新しさでは他の銭湯に劣る分、脱衣所も浴場も、隅々まで神経を使って磨き上げていた。
 極が店を継ぐ少し前、店のリフォームをした時にカーペットをビニールから籐タイルに張り替えたものの、開業から使用している体重計を筆頭に、網かご・扇風機・ベンチなどの「昭和の遺物」には、平成に至る今も――今日でその時代も終わるわけだが――現役で働いてもらっている。
 男湯と女湯を同時に見下ろせるほどの高さにある液晶テレビは、リフォームの際に買い換えた数少ない備品のひとつだ。
 あの「地デ●カ」によって、同年の七月に“駆逐”さえされなければ、今でもブラウン管テレビがそこに鎮座していたことはほぼ間違いない。
 そして、その四か月前。
 もし、東日本大震災が発生しなかったら、極はこの銭湯の三代目を継ぐこともなかっただろう。
 平成最後の日の今日、テレビは朝から長時間特別番組を編成し、いやが応にも「時代の終わり」を演出していた。いま画面に映っている局では、三年前に解散したはずの「あの」男性アイドル五人が笑顔で進行役を務めている。
(まさか、SM●Pを引っ張り出してくるとはなぁ)
 極は特別ファンではないが、それでも今日に合わせてふたたび彼ら全員が顔をそろえると知った時には、平成元年に生まれた人間として胸が熱くなるのを感じた。
(令和か……)
 ひと月前初めてその新元号を聞いた時には、いまいちピンとこなかったものだが、昭和生まれの客たちが言っていたように、これから徐々に時間をかけて慣れていくのだろう。
 平成から令和の変わり目に彼らの代表曲が歌われる。その頃までに掃除を終わらせて、平成にこの銭湯の三代目を継いだ自分の気持ちに区切りを付けておくのも悪くはない。
 極はトイレの脇の清掃用具入れからモップを取り出し、
「失礼しまーす」
 と、床の隅から掃除を始めた。
 そこへ、
「よう、キワメちゃん」
 聴き馴染みのある声に振り返ると、風呂から上がったばかりの、
 
 
 


 
 ここまでしか書きあがっていないので
 
 未完 


続きはこちら




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    他言無用!(中篇)




(おまけ)
※修正前(および新元号発表前)のタイトルと本文
昭和・平成・●● 極め湯三代目物語(仮題)


2012年。
前年の東日本大震災の 記憶が、いまだ
人々の心に深く刻まれていた この年の5月、


東京スカイツリー
が開業した。


古来の伝統と最新技術が融合した、
世界最長の 高さを誇る
この施設は開業当時、
大変なフィーバーを巻き起こし、
同人誌イベントの帰りに 観光目当てで立ち寄った作者も、 あまりの混雑ぶりに、 展望フロアでの 観覧を断念した記憶がある。




 それ から7年が経ち、日本のみならず世界
に定着した新観光名所から周辺に足を延ばすと、昭和三十年代から時間が止まっているかのような古びた家、目隠しフェンスで覆われた建築中の建物、マンション、コンビニなどが寄り集まる、現代の下町の光景が現れる。
 細い路地を近隣の商店街・遊織《あすおり》に向かって、十分程度歩くと、何の 前触れ もないまま、小さな銭湯がひょっこりと顔を出す。周辺に溶け込むように建っているこの二階建ての建物は、一階が銭湯で、二階が自宅。客用の玄関と個人宅の玄関が正面で隣り合い、ごくごく平凡な見栄えではあるが、真後ろにスカイツリーがそびえ立っている唯一無二の立地は、この土地ならではの威容を感じさせる。

 平成三十一年四月三十日午後九時半。
 平成最後となるこの日も、紫と白でライトアップされたスカイツリーの手前で、看板に「極め湯」と掲げたこの銭湯は通常と変わらず営業していた。
 靴ロッカーのある玄関からガラス戸を開けて中に入るとすぐに、番台のカウンターがある。そこに座っているのは、白いTシャツにスウェットジャージを穿き、耳と目にかかるぐらいの髪をジェルで無造作にまとめた、いかにも今時の若者といった風貌の青年だ。
 事情を知らぬ客からは、バイトか、あるいは家業の手伝いとみなされがちだが、青年はれっきとした極め湯三代目店主で、名を伊与田《いよだ》極《きわめ》という。
 玄関のガラス戸が開き、反射的に極は「いらっしゃ……」と口を開き掛けたが、入ってきたのがエプロン姿の母親であったため、途中で言葉をあいまいに濁す。
「極《きわめ》、あとはあたしがやっとくから、そろそろお風呂入っちゃいなさいよ」
「……ああ、わかった」
 極はひとつうなずいてカウンターを出ると、隣の男湯ののれんをくぐり、ドアを開けて中へと入った。温かく湿った空気の向こうでくつろいでいた客は三人、まだ風呂にいる客は五、六人ほど。周辺に住む常連客がほとんどだ。彼らに会釈をして、ざっと室内と浴室の様子を見回す。
 二代目の父親からも、事あるごとに言われてきたが、銭湯にとって礼儀と清潔さはまさに生命線だ。八年前、二〇一一年に三代目を継いでから、極はそれを嫌というほど実感し
、 設備の新しさでは他の銭湯に劣る分、脱衣所も浴場も、隅々まで神経を使って磨き上げていた。

極が店を継ぐ少し前、店のリフォームをした時に
 カーペットをビニールから籐タイルに張り替えたものの、開業から使用している体重計を筆頭に、網かご・扇風機・ベンチなどの「昭和の遺物」には、 平成に至る今も ーー 明日でそれも終わるわけだがーー 現役で 働いてもらって いる。
 男湯と女湯を同時に見下ろせるほどの高さにある液晶テレビは、 リフォームの際に 買い換えた数少ない備品のひとつだ。
 あの「地デ●カ」によって、 同年の七月に“駆逐”さえされなければ、今でもブラウン管テレビがそこに鎮座していたことはほぼ間違いない。
 そして、その 4 か月前。
 もし、東日本大震災が発生しなかったら、極はこの銭湯の三代目を継ぐこともなかっただろう。
 平成最後の日の今日、テレビは朝から長時間特別番組を編成し、 いやが応にも「時代の終わり」を演出していた。
いま画面に映っている局では、
 三年前に解散したはずの「あの」男性アイドル五人が笑顔で進行役を務めている。
(まさか、SM●Pを引っ張り出してくるとはなぁ)
 極は特別ファンではないが、それでも今日に合わせてふたたび彼ら全員が顔をそろえると知った時には、 平成元年に生まれた人間として 胸が熱くなるのを感じた。
(令和か……)
 ひと月前初めて その新元号 を聞いた時には、

いまいちピンとこなかった
まさかと思った
最初、 漢字が読めなかった
妥当だ と思った
日本中が驚いた
それまで予想されていた ものとの あまりの違いに
思わず耳を疑った
特に何も感じなかった

ものだが、

昭和生まれの客たちが言っていたように、これから徐々に時間をかけて慣れていくのだろう。
 平成から令和の変わり目に彼らの代表曲が歌われる。その頃までに掃除を終わらせて、
平成にこの 銭湯 の三代目を継いだ

自分の気持ちに区切りを付けておくのも悪くはない。
 極はトイレの脇の清掃用具入れからモップを取り出し、
「失礼しまーす」
 と、床の隅から掃除を始めた。
 そこへ、
「よう、キワメちゃん」
 聴き馴染みのある声に振り返ると、風呂から上がったばかりの、
 
 
 


 
 ここまでしか書きあがっていないので
 
 未完 


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