Husband of the younger brother 2

2016年09月03日 16:27

『弟の夫』三巻の発売日が確定した今、あえて二巻の感想。
 一巻の感想はこちら
 いつもの通り、完全ネタバレです。未読の方はご注意を。

 例によって、極めて個人的な感想です。


【注意】
・この記事のタイトルが、英語的に何か間違っているような気もしますが、書いてしまったものは仕方がないので、このままでいく
・感想の場合、普通登場人物は呼び捨てにするものだが、マイクさんはマイクさんなので、「マイクさん」のままでいく
・断定的に書いている個所もあるが、あくまで僕の不見識に基づく推測あるいは憶測であるからして、必ずしも正しい内容であるとは限らない
・さもエラそうに書いているが、実のところこれと言って目立った実績の無い、ただの一般人です




 今回は、死別したとマイクさんが(そして読者が)思っていた、弥一の前妻・夏樹が登場するところからスタート。
 夏樹は、初対面からマイクさんに好意的であり、娘の夏菜がゲイの彼を慕っていても、むしろ微笑ましく見守っているところから彼女もまた善人と思われる。結婚している間は、口げんかが絶えなかったそうだが、離婚して冷静になれたのか、それとも寂しくなったのか、弥一とよりを戻そうと(「実際の行動」も含めて)しているようだ。

 夏樹を含めて、登場するのは善人たちのみであり、少なくとも、マイクさんを直接傷つける人物は今のところ登場しない。
 弥一自身も、当初あったマイクさんへの違和感(差別に達するほどではないレベル)もすっかり消え、すっかりマイクさんと打ち解けている。その意味では、読者の(「良識派」、の但し書きが付くが)視点をそのまま反映しているようにも思える。


 前巻から引き続き、ゆったりした展開(この時点においても「<マイクさんと>まだ会ってほんの数日」)で、何か事件を起こしてストーリーを盛り上げようとするのではなさそう。
 健全な作品にこのたとえはおかしいかもしれないが、――自分もそれらしきものを書いているので――ポルノの場合、まったく事件を起こさずに話を進めるのは難しい。
 男と男がセックス、あるいはそれに類した行為をする以上、それなりの事件アクションがないと、男同士がそういった関係になる、というのを描きづらいから。少なくとも自分の場合。

 僕がもし『弟の夫』的なシチュエーションで小説を書くとしたら、早々に「悪役」を登場させて(ゲイを「異常動物」扱いする頭の固い近所の爺さんとか)、マイクさんをつらい立場に追いやるところだが、そうなると、以前の感想で挙げた

「私ゲイというだけでこんなひどい目に遭ってるの」話

 になってしまいそうではある。


 この作品において、そのような「ドラマ的にありがちな展開」は、作者が意識的に排しているようにも見える。
 たとえば、涼二とマイクさんの出会いのきっかけが判明するのだが、それを訊いた夏樹にマイクさんは「パーティで」と答えたものの、作者注によると、「本当は出会い系アプリで」だそうである。
 作り手的には(僕の書き方)、涼二とマイクさんの出会いはかなりオイシイシーンになりそうなので、多少のドラマチックな要素を加えたいところではある。
 しかし、それをすればするほど、リアルから離れていくのもまた事実。


 エピソード例をもう一つ。

 夏菜が友人のユキちゃんに、マイクさんを紹介しようとする。
 だが、「ユキちゃんのママ」は娘に「アクエーキョー(悪影響)」があると言ったらしく、マイクさんと会わせるのをやめさせる。
「昼ドラなら」――というたとえは、今では通用しないかもしれないが、感情の起伏の激しいキャラのドラマなら、すぐさまユキちゃんママが弥一家に押しかけて、マイクさんを攻撃するところだろうがそうはならない。
 それが、一般的な日本人(非LGBT)の反応だろう。

 このように過度なドラマ性を排除した結果、マイクさんのちょっとした陰りが際立ってくる。



 全体の雰囲気として、この作品は、「善人たちが織りなすほのぼのホームドラマ」の形式を取っている。
 進歩的な外国人・それに反して若干保守的な日本人・純粋な子供、というキャラクターを含めて、それを定型的と見る向きも当然あるだろう。
 だが、これは僕の勝手な憶測だが、あえてそう――定型的に――されているのではないか。

 もし、仮にマイクさんが(女性の)妻を亡くした非ゲイ、つまり『妹の夫』だとしたら、この話は外国人とのカルチャーショックを主なテーマとした、まさに見慣れたホームドラマになる。
 そこへゲイのマイクさんを投入することで、これまでの健全ほのぼのホームドラマとの差がくっきりと浮かび上がる。

 たとえば、今回も、弥一、およびマイクさんの(半)裸が登場するが、あくまでも風呂・着替えなどのシーンであり、性的な要素は切り離されている。(ということになっている)
 が、前巻のマイクさんのシャワーシーン、今巻の弥一の風呂などは、いわゆる「サービスシーン」と言えるほどに露出度が高い。
 また、マイクさんは、普段は聖人のように穏やか、あるいは悲しげな表情しか見せないが、スポーツジムでバーベルを上げる時の表情は一転して険しく(実際には「力んでいる」わけだが)、一般読者をドキリとさせる(そしてゲイ読者への「目くばせ」)効果があるだろう。

「ホームドラマ」というスタイルをとっているからこそ、そのインパクトは強い。



 この巻では、重要なゲストキャラクターとして、一哉という「中の学生」(※当ブログの規約により、「の」を抜くと公開できない)の少年が登場する。
 ゲイである彼は、自分の性的指向に悩み、たまたま弟が夏菜の友人であったこともあり、マイクさんにそれを相談したいと思う。
 しかし、人目もあり普通には相談できず、また彼の中で葛藤があったらしく、平日の午前中、皆が学校に出かけている時間帯にマイクさんに会いに来る。
 そして、一哉は涙を流して、マイクさんにカミングアウトする。

 ここで思い出すのが、先日発生した、大学院の同級生の男性に告白した結果、その相手にアウティングされ、精神のバランスを崩し、死を選んでしまった学生の事件。

 我々の身近に、公にカミングアウトをしたLGBTがいる、というケースは極めて稀である。
 現在のネット時代では、比較的「仲間」が見つかりやすいが、それはあくまでネットの中で消費されるやり取りであり、その外にいる一般の人たちには届きづらい。

 一哉のカミングアウト後、それにまつわるゲイの現実が、マイクさんの言葉で、弥一に向けて(という体裁で読者に)語られる。
 マイクさんは架空の人間である。だが、作者の田亀源五郎氏は実在する。
 一般にも高い知名度を持つ「あの」田亀先生、である。

 マイクさんの口を借りた、ゲイ漫画界の巨匠の言葉。
 これほどLGBT、あるいはそれを自覚しつつある人間にとって心強い言葉はないだろう。

 この作品をもし自死をした彼が事前に読んでいたとしたら、何かが変わったのかもしれない、と思うのはただの夢想だろうか。





 最後に、極めて個人的な感想など。

 田亀先生の他の“一般的に知られている”作品、すなわち、ハードコアSMにおいては、当然のことながらお笑いシーンはほとんど出てこない。
 そんな「田亀キャラ」がこの作品においては笑いも演じる、そのギャップが個人としては超好き、である。


 今巻の終わりもまた、「えっ?!」とドッキリするシーンがあり、それが次巻への橋渡しをしている。
 来月発売予定の最新巻を読むのが今から楽しみ。


 そして――
 田亀先生の他のエロティック作品では、主人公を容赦ない目に合わせることも多いので、まさかとは思うがそれだけがただただ心配である。



 どうかキャラ全員を幸せにしてあげてください。
 けっして、「フリ」とかではなく。


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